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無形資産は移転価格税制の最重要検討項目 | 押方移転価格会計事務所

移転価格税制 無形資産

移転価格対応でよく出てくるキーワードに「無形資産」があります。

この記事では「そもそも無形資産とは何か」、「無形資産が移転価格対応においてなぜ重要なのか」といった点について解説します。

<目次>
1.移転価格税制における無形資産とは
2.無形資産が移転価格税制において重要である理由
3.バックデートで税額を修正する税制改正が行われた
4.無形資産の取り扱いについて社内で検討しよう

ぜひ参考にして下さい。

1.移転価格税制における無形資産とは

一般的には「有形資産」の反対語として使われるものですが、移転価格税制における無形資産とは、目には見えないが収益獲得に大きく貢献する独自の資産のことです。

具体的には「高品質な製品を低コストで製造するノウハウや特許技術」「世間に広く認知されているブランド名称やロゴマーク」「多数の顧客との販売ネットワーク」などが該当します。

これらは多かれ少なかれどの企業も有するものですが、移転価格税制においては、「他社にはない独自なもの」あるいは「他社とはレベルが違うもの」であるがゆえに、収益力に大きく貢献する重要な無形資産のことを意味します。

関連記事:「無形資産とは」

2.無形資産が移転価格税制において重要である理由

無形資産が移転価格税制において重要である理由は次の3つといえるでしょう。

①無形資産の使用料を受け取っているか

日本本社が長年の研究活動の成果として特許技術や製造図面などの製造ノウハウを蓄積しており、それが高収益の原因であると認められる場合、そのような価値あるノウハウを合理的な理由なく他社に無償で提供することは通常は考えにくいです。

ところが海外子会社の場合は、身内感覚でこれらの企業秘密を無償で提供してしまうことがあります。

移転価格税制(及び国外関連者への寄付金規定)においては、子会社との取引を第三者と同じように行うことが求められますので、第三者に提供した場合と同様に、製造ノウハウ等の使用許諾契約を結び、しかるべき使用料(ロイヤリティ)を受け取ることが必要となります。

対価を受け取っていない場合や対価の額が独立企業間価格に満たない場合は、寄付金課税または移転価格課税を受けてしまう可能性があります。

②独立企業間価格算定方法への影響

無形資産を有しているかどうかはローカルファイルにおける独立企業間価格算定方法に影響を与えます。

例えば、親会社と子会社の両方が無形資産を有していると認められる場合、無形資産形成に要したコスト等の比率で親子間の合算利益を分割する残余利益分割法が採用される可能性があります。

一方、親子間のどちらか一方しか無形資産を有していないと認められる場合は、無形資産を有していない方を検証対象とする取引単位営業利益法が採用される可能性があります。

無形資産の有無で全てが決まる訳ではありませんが、独立企業間価格算定方法を選定する際に、無形資産は必須の検討項目です。

③見解の相違の温床である

無形資産は工場設備などのようにはっきり目に見えるものではないため、客観的な説明が難しい場合があります。

ビジネスの成果に影響を与える要因は無数にある中で、「製造技術が無形資産である」「ブランド名が無形資産である」と明確に説明できるとは限りません。因果関係が不明確な場合があると言い換えてもいいでしょう。

どうしても主観が入りますし、関係者それぞれの思惑もありますので、見解の相違が生じる余地が残ります。

子会社の税務当局から、「日本本社は製造ノウハウが無形資産と主張しているが、それをいうなら子会社の販売力も無形資産だ(=だからもっと利益が多くなければならない)」、あるいは「無形資産など実在しない(=日本本社に払ったロイヤリティの全額否認)」といった主張を受ける可能性を秘めています。

3.バックデートで税額を修正する税制改正が行われた

無形資産は捉えどころがない面がありますので、無形資産を売買する場合、適正な販売価格を評価することが難しいことがあります。

そのため、そのような「評価困難な無形資産(Hard-To-Value-Intangibles:HTVI)」をグループ会社に売却する場合、売却してから5年間の取引実績をみてからバックデートで販売当時の価格を再評価することができるように税制改正が行われました。(所得相応性基準)

これは取得したての特許権を低税率国にあるグループ企業に低価格で売却して、その国に多額のロイヤリティー収入を集中させるような租税回避行為を防止するためにOECDのBEPSプロジェクトにおいて提言されたものです。

今後の調査動向に注目ですが、企業にとっては売却後もしばらく追徴課税リスクが残るということですので、適用除外基準の設定など一定の配慮が必要だと思います。

4.無形資産の取り扱いについて社内で検討しよう

「超過収益をもたらす目に見えない資産」という何とも捉えどころのない無形資産ですが、移転価格税制における基本的な考え方を知っていれば対処の方法もみえてくるものです。

移転価格税制は身内びいきを行うことによって、海外子会社に不当に所得を移転させることは認めないという税制です。

親子間取引を行っている海外子会社が同業他社よりも大幅に儲かっている場合、その理由は無形資産があるのか、所得移転が起きているのかのどちらかということになります。

見解の相違が起きる可能性は常に残りますが、企業のことに関しては企業自身が最も多くの情報を持っていますので、説明のしようはあるはずです。

問題が起きる前に無形資産についての理論武装をしておくことをお勧めします。

<この記事を書いた人>
押方移転価格会計事務所 押方新一(公認会計士・税理士)

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