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為替リスクの問題は小手先のテクニックでは解決できない | 押方移転価格会計事務所

移転価格 為替 レート

移転価格税制における為替リスクについて考えてみます。

親子間取引における為替レートの変動による影響には2つのパターンがあります。1つは取引日と決済日のレート差による影響です。

海外子会社から1万ドルの商品を購入し、その日のレートが1ドル=110円だった場合、買掛金として110万円が計上されますが、後日の決済日のレートが1ドル=120円になっていた場合は120万円支払う必要がありますので、10万円の為替差損(決済損益)が生じます。

購入した商品を150万円で販売したとすると、棚卸資産の販売から40万円の利益が発生し、その後の決済で10万円の損失が生じたことになりますが、移転価格税制上はこれらの取引は別個の取引と考えます。(二取引基準)

つまり当初の購入価格である110万円が独立企業間価格であると説明できるのであれば、その後の決済で多額の為替差損益が生じたとしても移転価格税制上の問題はないことになります。

問題は取引価格に含まれる為替レートの変動

もうひとつのパターンは、為替レートの変動が売上や売上原価の額に直接連動する場合です。取り扱いはこちらの方がはるかに難しいです。

1万ドルで購入した商品を150万円で販売する取引の場合、1ドル=110円であれば40万円の粗利益が出ますが、1ドル=120円になった場合は売上原価が120万円になりますので、粗利益が30万円に減ります。為替相場に連動して売上原価の金額が変動するため、売上総利益率や営業利益率が上下することになります。

移転価格税制上は、レート変動による影響を受けた後の実際の取引価格が独立企業間価格であるかどうかが問題となります。想定外のレート変動により日本本社の利益率が低くなったとしても、原則としてそれは移転価格上の問題がないと主張する根拠にはなりません。

海外子会社サイドも同様

これは海外子会社サイドでも同様です。海外子会社の利益率が低い理由として為替レートの変動を挙げたとしても、海外側の税務当局がそれを認める可能性は低いです。(海外子会社が為替リスクを負っていて、比較対象取引が為替リスクを負っていないことが明らかな場合に、合理的な調整計算を行った部分は認められる可能性があります。)

ですので海外子会社の業績悪化を救済するために、期末近くになって価格調整金(為替調整金)を支払うと、子会社支援を行ったとして日本の当局から寄付金認定を受ける可能性が高いです。独立企業間でそのような補償金を支払うことは考えにくいからです。

通貨危機といえるほどの大きなレート変動であれば特殊要因として考慮されることがあるかもしれませんが、通常の範囲のレート変動は各関連者が営業活動の一環としてリスクを負担し、その上で独立企業間価格で取引することが必要ということになります。

時間をかけた対策が必要

レートが安定的な時は何の対策もせず、レートが急激に動いた時に慌てる企業が少なくありませんが、為替対策は一朝一夕ではできませんので、時間をかけた対策が必要です。

為替予約は当然のこととして、大幅なレート変動が起きた場合の価格転嫁については、あらかじめ取引先と交渉しておくことが非常に重要です。

親子間取引の価格調整についても事前にルールを決めておき、日頃からそのルールに従っているのであれば、恣意的な子会社支援と指摘されるリスクは小さくなります。

第三者間取引と同様の条件といえるか

親子間の価格調整ルールですが、可能であれば第三者間取引で行っているルールを準用しましょう。

第三者間取引では為替リスクの負担方法も取引条件のひとつです。「半年ごとに為替相場を確認し、一定以上のレート変動があった場合は単価調整を行う」といったルールは独立企業間であれば交渉で決まるものですので、それを親子間取引に準用できれば、独立企業間と同様の条件で取引しているという説明に説得力が出ます。

親会社が為替リスクを全面的に負担することも一考の価値あり

とはいえ親子間取引の場合、取引条件は親会社が主導的に決定しており、子会社サイドに単価や納期の決定権がないことも多いでしょう。このような場合は親会社が為替リスクを全面的に引き受けるのもひとつの方法です。

移転価格税制には、限定的な機能とリスクしか負担していない関連者の利益率は一定範囲に収まるべきという考えがあります。

この考えを踏襲するならば、親会社が為替リスクを負担することによって、機能リスクが限定的な海外子会社の利益率を安定化させることは移転価格的には有効な対策といえます。

各国の外貨規制などにより理屈通りにいかない場合もあると思いますが、海外進出企業にとって為替リスクの管理は重要な経営課題ですので、じっくり腰をすえて対策を行うことをお勧めします。

<この記事を書いた人>
押方移転価格会計事務所 押方新一(公認会計士・税理士)

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