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関連当事者の開示に関する会計基準における独立第三者間価格と移転価格税制 | 押方移転価格会計事務所

関連当事者 移転価格

上場企業に適用される企業会計の基準のひとつに「関連当事者の開示に関する会計基準」があります。

この基準は、関連当事者(定義は以下で説明)との取引のうち重要な取引を財務諸表の注記事項として開示することを求めています。

「会社と関連当事者との取引は、会社と役員等の個人との取引を含め、対等な立場で行われているとは限らず、会社の財政状態や経営成績に影響を及ぼすことがある」ため、投資家などへの情報開示が必要だからです。

また関連当事者との取引が独立第三者間取引と同様の条件で行われている場合は、その旨の記載を行い、監査人はその記載内容が適正であるかどうかについての監査証拠を入手しなければならないことになっています。(監査基準委員会報告書550 第23項)

それに対して移転価格税制は、国外関連者との取引を独立企業間取引と異なる条件で行うことによって、所得(利益)が国外に移転することを防止するための税制です。

投資家保護と租税回避の防止。両者の目的は異なりますが、身内との取引を独立した第三者同士の取引と同様の条件で行っているかどうかがポイントという点では共通しています。

そこで「関連当事者の開示に関する会計基準」と同適用指針を確認し、移転価格対応の参考にできる記載がないかを検証してみます。

<目次>
1.関連当事者と国外関連者の範囲の違い
2.開示対象となる関連当事者との取引
3.関連当事者との取引の開示項目目
4.関連当事者との取引の開示例
5.移転価格対応に役立つ情報はあるか
6.まとめ

1.関連当事者と国外関連者の範囲の違い

まず関連当事者の範囲ですが、

①親会社
②子会社
③財務諸表作成会社と同一の親会社をもつ会社
④財務諸表作成会社が他の会社の関連会社である場合における当該他の会社並びに当該他の会社の親会社及び子会社
⑤関連会社及び当該関連会社の子会社
※関連会社=20%以上の議決権を有するなど重要な影響力を与えることができる会社(子会社は除く)

といった法人に限らず、

⑥財務諸表作成会社の主要株主及びその近親者(二親等以内の親族)
⑦財務諸表作成会社の役員及びその近親者
⑧親会社の役員及びその近親者
⑨重要な子会社の役員及びその近親者

といった個人も含まれます。
経営者の親族などとの不当な取引によって会社の財政状態や経営成績に影響が及ぶ可能性があるからです。

それに加えて、

⑩⑥から⑨に掲げる者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社及びその子会社
⑪従業員のための企業年金

も含まれます。

一方、移転価格税制における国外関連者は原則として、出資比率50%以上の外国法人です。(詳しくは、「国外関連者かどうかは形式+実質基準で判定」を参照)

目的が違うので当然ですが、両者は範囲が異なっていることを確認しておきましょう。

2.開示対象となる関連当事者との取引

会計基準によると、会社と関連当事者との取引のうち重要なものを開示することとされています。

棚卸資産取引に限らず、資金の貸し付け、債務保証なども対象に含まれます。但し、役員報酬や配当及び連結決算によって相殺消去された取引は開示の対象外です。

形式的に第三者を介在させただけで、実質的には関連当事者との取引である場合も開示対象になります。これは移転価格税制における「みなし国外関連取引」と同じ趣旨です。

関連当事者と無償取引あるいは低廉な価格で取引を行った場合は、その取引が独立第三者間であったと仮定した金額を見積もった上で、重要性を判断し開示するかどうかを決定します。

例えば経営者の親族が所有する会社に無利息で10億円の貸し付けを行っており、独立第三者間であれば5%の金利を取るべきだったとすると、5000万円の受取利息の計上モレがおきていることになります。

この5000万円が財務諸表作成会社の経営成績を考える上で重要であると判断した場合は、関連当事者との取引として開示するということです。

これが税務調査であれば、未収利息分を経営者への役員賞与または貸付先企業への寄付として認定するはずです。(国外関連者への無利息貸し付けであれば、国外関連者への寄付になります)

3.関連当事者との取引の開示項目

開示対象となる関連当事者との取引がある場合、原則として個々の関連当事者ごとに次の項目を開示することとされています。

(1) 関連当事者の概要
(2) 会社と関連当事者との関係
(3) 取引の内容。なお、形式的・名目的には第三者との取引である場合は、形式上の取引先名を記載した上で、実質的には関連当事者との取引である旨を記載する。
(4) 取引の種類ごとの取引金額
(5) 取引条件及び取引条件の決定方針
(6) 取引により発生した債権債務に係る主な科目別の期末残高
(7) 取引条件の変更があった場合は、その旨、変更内容及び当該変更が財務諸表に与えている影響の内容
(8) 関連当事者に対する貸倒懸念債権及び破産更生債権等に係る情報

「取引条件及び取引条件の決定方針」が移転価格税制でいうところの移転価格ポリシーに相当しますので、この部分の記載を確認したいと思います。

4.関連当事者との取引の開示例

上記を踏まえた上で、「関連当事者との取引に関する会計基準の適用指針」に関連当事者との取引の開示例が掲載されていますので、内容をみてみましょう。(原文はインターネットで閲覧可能)

①親会社との製品取引についての取引条件の決定方針



独立第三者間と同様の一般的な取引条件で行っている」

②親会社からの借り入れ金利



「借入利率は市場金利を勘案して合理的に決定しており、返済期限は5年、1年据え置き、半年賦返済としている。なお、担保は提供していない」

③その他の関係会社(※関連当事者の一種)からの原材料購入



「他の会社からも複数の見積もりを入手し、市場の実勢価格を勘案して発注先及び価格を決定している」

④その他の関係会社との建物の賃貸取引



近隣の取引実勢に基づいて、2年に一度交渉の上、賃貸料金額を決定している」

⑤その他の関係会社からの土地の担保提供



「当社の銀行借り入れに対する土地の担保提供は、当該その他の関係会社からの原材料購入のための資金借り入れについてのものである」

⑥主要株主(法人)への技術料の支払い



「当該主要株主より提示された料率を基礎として、毎期交渉の上、決定している」

⑦関連会社に対するコンピュータープログラムの外注



「当該関連会社から提示された価格と、他の外注先との取引価格を参考にして、その都度決定している」

⑧関連会社への何か(記載なし)の売上



市場価格、総原価を勘案して、当社希望価格を提示し、毎期価格交渉の上、取引条件を決定している」

⑨その他の関係者の子会社に対する旧工場跡地の売却



不動産鑑定士の鑑定価格を参考にして交渉により決定しており、支払い条件は引き渡し時50%、残金は5年均等年賦払、金利は年××%である」

5.移転価格対応に役立つ情報はあるか

上記の記述が移転価格対応の参考になるか確認してみましょう。

1.「独立第三者間価格である」と言っているだけ

まず①ですが、これは何の参考にもなりません。なぜ独立第三者間と同様の一般的な取引条件といえるのかが全く説明されていないからです。

しかし現実問題として、ローカルファイル的なものがない場合は書きようがないのかもしれません。

私も監査法人時代に同じ文言が記載されている有価証券報告書をチェックした記憶がありますが、記載内容が真実かどうかを確かめるための手続きは特段行っていなかったように思います。

2.比較対象取引を探す

②の「市場金利を勘案」、③の「複数の見積もりを入手し、市場の実勢価格を勘案」、④の「近隣の取引実勢に基づいて」、⑦の「他の外注先との取引価格を参考」、⑧の「市場価格、総原価を勘案」は、比較対象取引を探してくるという移転価格税制と同じアプローチです。

②、④は外部CUP法、③は外部CUP法と内部CUP法の両方、⑦は内部CUP法、⑧はCUP法とCP法の混合的考え方といえるでしょう。

市場金利と近隣の家賃相場は信用度の高い比較対象取引が見つかると思いますが、原材料取引(③)について「市場の実勢価格を勘案」したと言われても信ぴょう性に疑念が残りますので、「複数の見積もりを入手」することにより証拠力を補完しているように思えます。

いずれにせよ、見積もりをとって比較するなど相場を調べる努力は移転価格対応においても有効であることは間違いありません。

3.対価性がある取引だと主張する

⑤は、自社の借り入れの担保として関連当事者の土地が提供されていることの理由を説明しています。ビジネス上の合理性がある取引であって、身内間の特別取引ではないという主張です。

移転価格対応においても、ビジネス上の必要性があるから国外関連者の債務保証(あるいは自社資産の担保差し入れ)をしているのであって、保証料を受け取るたぐいの取引ではない(=対価性があるので国外関連者への寄付ではない)と主張する場面があるかもしれません。

4.時価を算定してもらう

⑨の「不動産鑑定士の鑑定価格を参考」は専門家に公正価値(時価)を算定してもらっています。第三者に公正な価格を算定してもらえるのであれば、これは高い証拠力があるといえそうです。

土地に限らず日本本社が保有する機械を国外関連者に売却する場合などは、業者からの査定が入手できるケースもありますので、移転価格対応においても役立つ場面がありそうです。

5.交渉時の資料を残しておく

④、⑥、⑧、⑨に「交渉」という単語が出てきます。関連当事者との取引条件を交渉によって決めているということです。

双方の利害がからみますので、関連当事者間ならでは忖度は多少あるにせよ、独立第三者間取引に近い交渉によって取引条件が決まっていることが多いはずです。(そうでないなら、そこを改善するのが第一です)

であれば、その交渉記録をできるだけ残しておいて、税務調査時の根拠資料とできるよう準備しておくことが重要だと思います。

いろいろな交渉がありますので、この書類を残せばいいと一概にはいえませんが、会議資料でもメールでも交渉を行った記録を残すよう心がけましょう。

何年か経った後に指摘されても、当時の資料がなければ直接関わった訳ではない経理部門の人は十分な抗弁ができない可能性が高いです。

そのためには経理部門だけでなく、関連者間取引に関わるすべての人が「身内同士の取引は税務調査で指摘されやすい」という事実を認識しておくことが必要です。

6.まとめ

身内同士の取引は会計上も税務上も問題になりやすいということです。

関連当事者間の取引であっても移転価格対応であっても、独立企業間でも成り立ち得る取引かどうかを日ごろから意識する習慣(企業文化)を作ることが、最終的には最も有効(かつ低コスト)な対策です。

当事務所が「移転価格税制に対応できる社内体制作り」をコンサルティングの目的にしているのは、経理部門だけでは十分な対応ができないという意味も込められています。

関連部署を巻き込んだ全社的活動であると認識することが移転価格対応を始める上での第一歩だと思います。

<この記事を書いた人>
押方移転価格会計事務所 押方新一(公認会計士・税理士)

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