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給与較差補填の寄付金認定を防ぐための9つの検討項目 | 押方移転価格会計事務所

出向者 人件費 海外

海外に駐在員を送っている企業にとって頭の痛い問題のひとつに海外出向者の人件費負担があります。

海外出向者を送るには多額の経費が必要となります。

・本人や配偶者の語学研修費用
・赴任支度金
・現地での住居費
・子女教育費
・フライト代
・海外出向手当
・現地での車代、運転手代
・現地所得税の負担

会社によって項目に差はありますが、トータルで国内勤務の2倍以上のコストがかかることも珍しくありません。

金額が大きいため子会社に全額負担させることはできず、一部を親会社が負担していると思いますが、税務調査においてその負担金部分が子会社への寄付と認定される場合があります。

日本の税務調査官は当然ながら、「現地法人のために働いた費用ですので、全て現地法人に負担させて下さい」という主張(もしくはこれに近い主張)をしてきます。

ですが、すべてのコストを現地法人に負担させるとローカル社員5人分以上にも相当する場合があり、「そんな高い人は来てくれるな」となります。また日本からの給与支給をゼロにすると社会保険の継続ができなくなるという問題も生じます。

また出向期間中も、出向者と日本本社との労働契約は継続しています。出向者は日本本社の規定に従った給与を受け取る権利があります。日本で年収800万円の人が、出向期間中は現地の給与規定に従って年収300万円、ということにはできないのです。

この問題に対応するルールとして、法人税法基本通達9-2-47があります。

給与較差補填と呼ばれているものですが、この規定だけでは判断がしにくく実務の現場で混乱が生じています。「業績不振時の賞与」と「いわゆる留守宅手当」は給与の較差補填とみなすとありますが、それ以上のことは書いていません。具体的に「何」と「何」の差が給与較差で損金に算入できるのか、はっきり書いていないのです。

規定自体がこうですので、調査官によって対応がまちまちです。親会社がかなりの額を負担していても指摘しなかったり、社会保険を継続するための最低限の支給額を否認したり、独身者に留守宅手当を払うのはおかしいといったり、調査のたびに違うことを言われます。

そこで、出向者負担金の寄付金認定を防ぐために検討すべきことをまとめてみました

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参考になれば幸いです。

目次

1.結論
2.原則は子会社負担
3.寄付金認定を防ぐための9つの検討項目
4.関連する税制も押さえておこう
5.まとめ

1.結論

最初に結論を言いますと、海外出向者の給与較差補填が出向元の損金として認められるかどうかは妥当性の判断になります。給与較差補てん額の計算式が公表されている訳ではありませんので、「このように計算すれば確実に損金になる」という明確なルールはありません。

こちらの主張を税務当局が妥当と判断すれば損金になりますし、妥当と認めなければ国外関連者への寄付として最長5年間遡って否認されます。否認された場合の金額は大きなものになりますので、リスクを少しでも減らすための理論武装を固めるしかありません。

逆の言い方をすると、理論武装をしっかり行えば否認リスクは低くなります。下記検討項目を読んで、ぜひ参考にして下さい。

2.原則は子会社負担

海外出向者が出向先の法人で勤務したことにより挙げた成果は、第一義的には出向先の法人に帰属します。従ってその成果を挙げるために要した費用は、原則としては出向先が負担すべきです。

給与格差補填はこの原則の一種の例外です。例外ですので較差補填であることをしっかり説明できない場合は、原則通り出向先法人が負担すべき費用ということになってしまいます。

日本側で否認された場合は子会社から回収することを検討しますが、子会社に支払い余力がない場合もありますので、諦めて寄付金として処理することが多いです。

3.寄付金認定を防ぐための9つの検討項目

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それでは、寄付金認定を防ぐための検討項目を順番に解説していきます。

①現地の給与水準を客観的な書面で証明できるか

最も重要な検討項目です。

現地の給与水準と日本本社の給与水準との差額が給与較差ですので、出向者が現地法人で雇われた場合の給与を客観的な書面で残しておくことが重要です。現地子会社の給与規定や他の従業員の給与データを本社でも入手しておき、税務調査時にスムーズに提出できるようにしておきましょう。

出向者が子会社のマネージャーであれば、現地採用のマネージャーの給与をベンチマークにすることが最も妥当です。現地にマネージャーがいなければ、ディレクターとスタッフの中間に設定することが妥当です。

子会社の規模が小さく明確な給与規定がない場合は、現地の会計事務所に業界の一般的な給与水準を教えてもらうことも有効です。

②海外子会社との間で出向契約書が結ばれているか

海外子会社との間できちんとした出向契約書が結ばれていることも重要です。出向契約書に海外子会社の負担額、出向期間、現地での職務が書かれており、正式な社内決済を得ていれば恣意的に負担額をコントロールしているという疑念を小さくすることができます。

③出向契約書は適時に改訂されているか

一度結んだ契約書が見直されているかどうかも重要です。現地法人の負担額が5年間全く変わっていないとすると、やはりそれは不自然です。現地での役職が上がった場合は現地法人の負担額を増やすべきですし、ローカルスタッフの昇給に合わせて出向者も昇給すべきです。

給与の較差補填であることを自然な形で説明するために、毎期、出向契約を巻き直すことが望ましいでしょう。

④同業他社の給与水準を確認したか

統計資料などから、現地の給与水準を把握しておくことも有効です。統計資料がない場合は現地の会計事務所に確認すれば大体の相場を教えてもらえる可能性があります。あまりに相場とかけはなれた水準になっている場合は、注意が必要といえるでしょう。

⑤各種手当/福利厚生の負担者は妥当か

海外出向者には様々な手当がつきます。日本本社の規定に基づくものもあれば、現地法人の規定に基づくものもあります。それらの手当をひとつひとつ精査し、どちらが負担すべきか検討することが必要です。

現地の規定に基づく手当は現地負担にするのが原則です。現地での家賃や車代を本社が負担すると、その部分について否認される可能性が高くなります。

⑥新興国への出向か

給与較差補填のルール自体は古くからあり、当初は国内出向者を想定していたと考えられますが、現在では、主に海外出向者に適用されるものになっています。

海外、特に給与水準の低いアジア諸国に出向した場合、日本本社と現地法人の給与格差が非常に大きいため、一定の配慮が必要であるという認識です。

先進国への出向の場合は、日本との給与較差はあまりありませんので、給与較差補填であるというロジックが弱くなります。

先進国への出向者に対する給与較差補填が、絶対に認められないということではありませんが、新興国への出向の場合より否認リスクは高くなるといえるでしょう。

⑦海外子会社は経営危機にあるか

海外子会社が経営危機にある場合は、日本本社が人件費を多く負担しても認められる可能性があります。これはよほどの場合ですので、参考程度にお考え下さい。

⑧海外子会社の利益水準は高いか

このあたりがまさに妥当性の判断と言える点ですが、海外子会社の利益水準が高いにも関わらず、多額の較差補填を行っていると、調査官が「儲かっているのだから、子会社に応分の負担をしてもらうべき」という心証を持つ可能性があります。

⑨グループ間取引ポリシーが文書化されているか

給与の較差補填に限らず、海外子会社への出張支援を行った場合の費用負担や、子会社に貸付を行った場合の利率等のグループ間取引についての方針が、「グループ間取引ガイドライン」のような形式で書面化されており、税務調査時にスムーズに提出できると調査官の理解を得やすくなります。

「当社はこのようなポリシーに基づいて、グループ間取引を行っています。」と、説得力を持って説明できますので、税務コンプライアンスへの意識の高さをアピールできます。

妥当性の判断に関する税務調査は最終的には調査官の心証による部分が大きくなります。数ページ程度の簡単な形で構いませんので、グループ間取引ポリシーの文書化をお勧めします。

4.関連する税制も押さえておこう

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給与較差補填は法人税法上の議論ですが、所得税などの他の税目にも関連する部分があります。較差補填に関係する他の税制についてまとめておきます。

①所得税との関連

・源泉徴収は不要

給与較差補填金は日本の国外源泉所得ですので、日本の所得税の課税対象外です。従って源泉徴収は不要です。

・給料以外の各種手当

海外赴任には給料以外にも、語学研修費や引っ越し代、留守宅手当など様々な費用が発生します。まずはそれらが本人の所得になるのか、旅費等の他の科目になるのかを個別に検討することが必要です。

海外赴任規定に従った赴任支度金は、通常認められる範囲であれば「旅費交通費」になりますし、赴任前の語学研修費は「教育研修費」になります。一方で、海外出向手当、留守宅手当などは本人の所得になります。

本人の所得になる分を較差補填金として日本本社が負担する場合は、その内容と金額を現地に連絡して、現地の所得税の課税対象かどうかを判断してもらう必要があります。

②事業税(外形標準課税)との関連

資本金1億円以上の企業には、事業税の外形標準課税が適用されます。外形標準課税の一項目である付加価値割を算定するときの「報酬給与額」に給与格差補填額は含まれるのでしょうか。

報酬給与額は全世界報酬から、海外PE(海外支店)に帰属する分を控除して算出します。海外子会社への出向者に支払う給与較差補てん金は海外PEに帰属しませんので、控除の対象とはならず報酬給与額に含まれることになります。

③所得拡大税制との関連

所得拡大税制の適用があるかどうかは、国内雇用者に支払った報酬給与額で判断します。従って非居住者である海外出向者への較差補填金額は除外して計算します。

④移転価格税制との関連

・子会社の利益水準に注意

移転価格計算方法として取引単位営業利益法(TNMM)を採用している場合、給与較差補填の金額により営業利益率が変動します。多額の較差補填を行った場合、海外子会社の営業利益率が高くなりレンジの上限を超える可能性もあります。

そうなると価格調整金の受け取りや取引価格の改訂を行う必要が出てきますので、海外子会社の利益率が高くなってきた時は、出向者の人件費については応分の負担をお願いし、レンジ内に収まるようにすることが望ましいと考えます。

・別表17(4)に記載は不要

法人税の別表17(4)は、国外関連者との取引について記載するものですが、給与較差補てん額を記載する必要はありません。

業務委託契約や請負契約である場合は国外関連者との取引として記載しますし、契約金額が独立企業間価格かどうかという議論の余地がありますが、給与較差補てんは出向契約に基づくものです。

二重の労働契約になっていることから生じる労働対価の較差分について、出向元が支払った分については損金算入を認めるということであり、出向先(である国外関連者)と取引を行ったとはいえないからです。

5.まとめ

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日本本社が一部でも給与較差補てんを行っている限り、否認リスクをゼロにすることはできません。ですが理論武装を行い、寄付ではないことを理路整然と説明できればリスクを小さくすることはできます。

上記検討項目を大きく2つに分類すると下記になります

☑証拠となる書面を提出できるか

税務調査において、書面として提出できるかどうかは極めて重要です。給与較差補填においても、現地の給与水準がわかる資料、子会社と交わした出向契約書、グループ間取引ポリシーを記載した文書など、較差補填であることを立証するための書面を整えるようにしましょう。

☑較差補填といえる状況か

子会社に大きな利益が出ている場合や先進国への出向の場合など、「本当に較差を補填する必要あるの?」という問いにYesと答えられない場合は、できる限り現地に負担してもらうようにしましょう。

この2つを意識しながら、ぜひ自社にあてはめて検討してみて下さい。

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この記事は国際税務の一分野である移転価格税制専門のコンサルタントが書いています。
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<この記事を書いた人>
押方移転価格会計事務所 押方新一(公認会計士・税理士)

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